こんにちは。化工見習いです!
今回は、化学工学量論-5-1【物質収支の基礎】に関する解説をしていきます。
物質収支は化学工学で一生使いますし、身の回りでも適用できるものです。マスターしましょう!
質量保存の法則
物質収支の根幹にあるのが、質量保存の法則です。質量保存の法則は中学で習った通りですが、
「閉じた系(外界とエネルギーや質量の交換がない系)においては、物質の全質量は一定である」というものです。これは化学反応があっても当然成立します。
これを利用して、流入、流出、生成などが存在する工業的プロセスに適用するときこれを「物質収支」と呼びます。
物質収支
物質収支は以下の式で定義されます。
仮に\(\ i\)成分については
「(\(\ i\)成分の蓄積量)=(\(\ i\)成分の流入量)ー(\(\ i\)成分の流出量)+(\(\ i\)成分の生成量)ー(\(\ i\)成分の消失量)」・・・(1)式
全成分を総和すれば、全成分に関しては反応の前後で質量保存則が成り立つので(全成分の生成量)ー(全成分の消失量)=0となり、
「(全成分の蓄積量)=(全成分の流入量)ー(全成分の流出量)」・・・(2)式
と定義できます。
例
文字の羅列だけだと分かりずらいので、身近なものを例に、物質収支に慣れてみましょう。
例1. 買い物に行って、りんごをかごに出し入れします。1分あたり3個のスピードでかごに入れると同時に、1分あたり2個のかごでりんごを出します。この場合、かごには1分あたり何個のりんごが溜まっていくでしょう?
物質収支の(1)式から、
りんごの蓄積量=りんごの流入量ーりんごの流出量+りんごの生成量ーりんごの消費量
で表されます。この問題では、りんごはかごの中で生成も消費もされませんから、
りんごの蓄積量=りんごの流入量ーりんごの流出量=3ー2=1 個/min
となり、1分あたり1個ずつ、りんごがかごに溜まっていくことが分かります。
この例題のように、物質収支はイラストや図があると非常に考えやすいです。フローを視覚化することで効率的に解けます。最後の例題も是非流れを図示して解いてみてください!
定常状態と非定常状態
物質収支を考える上でも重要な、「系の状態」というものが主に2つあります。
それが定常状態と非定常状態です。
定常状態:系の状態が経時的に変化していない(時間に対して一定である)状態のこと。
非定常状態:系の状態が経時的に変化している(時間に対して一定でない)状態のこと。
定常状態であるということは、系の状態が変化していないということなので、(1)式の左辺である「系の蓄積量」が0になります。
つまり、定常状態での物質収支は、
「0=(\(\ i\)成分の流入量)ー(\(\ i\)成分の流出量)+(\(\ i\)成分の生成量)ー(\(\ i\)成分の消失量)」・・・(3)式
であり、
「0=(全成分の流入量)ー(全成分の流出量)」・・・(4)式
であるということです。これは特に重要なので確実に理解してください。
例題
問1.物質収支は質量保存則が基になっている。(正誤)
問1の答え
答え・・・正
問2. 系の状態が、時間とともに変化した。この状態は定常状態である。(正誤)
問2の答え
答え・・・誤
問3. 穴の開いたあるバケツに、蛇口から1 L/minの流量で水を入れ続けた。一定時間後、バケツ内の水位が一定になった。この時の穴から流出する水の流量(L/min)を答えよ。
問3の答え
答え・・・1 L/min
問題文の「バケツの水位が一定になった」という表現から、系は「定常状態」と判断できる。つまり、「0=(全成分の流入量)ー(全成分の流出量)」であるから、水の流出量=水の流入量=1 L/min
問4. ある容器内で、水素と酸素を反応させて水を生成する。容器の入り口から水素を100 mol/h、酸素を50 mol/hの流量で流入させると、容器出口から水が50 mol/hで流出した。この時、容器出口から流出する水素と酸素の流量(mol/h)を答えよ。ただし、定常状態を仮定してよい。
問4の答え
まず、水が50 mol/hで流出しているということは、容器内において、水素が 50 mol/h、酸素が25 mol/h消費されていることが分かる。
その上で各成分について物質収支を考える。流出量を\(\ X_(H_2)\)、\(\ X_(O_2)\)とする。
水素:式(3)より、\(\ 0=100-\(\ X_(H_2)\)+0-50\)よって、\(\ X_(H_2)\)=50 mol/h
酸素:式(3)より、\(\ 0=50-\(\ X_(O_2)\)+0-25\)よって、\(\ X_(O_2)\)=25 mol/h
まとめ
物質収支は化学工学の基本中の基本です。これを抑えたうえで、定常状態と非定常状態もしっかり理解する必要があります。
身の回りのことを題材に物質収支(定常状態、非定常状態)について考えてみると理解が深まると思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
コメント